権利処理実務者の諸々日記

著作権や肖像権等の権利処理に携わってきた筆者が周辺書籍の紹介等をします。

実務上の刺激

この仕事をしていて、楽しいなぁって思うときは知らないことに対面した時です。

例えば、ある番組でレイ・ブラッドペリの作品が紹介されていればその作品を読んでみようと思い、実際に読んでみる。その縁でアメリカでテレビのカラー放送が始まった年が1953年12月だと知る。

とか、

戦争番組を多く処理したことが関係して、昭和天皇実録が公開された時には、国立公文書館まで読みに行ったとか。

一番よくあるのはドラマの原作を読むこと。そこから新たにお気に入りの作家さんが出てきて…。

日々いろいろ刺激があるのです。こういう刺激があるからこそ辞められない仕事なのです。まぁ、この手の情報は仕入れては忘れての繰り返しではあるのですが…。

ちなみに、今日仕入れたことは…。
社外秘なので、まだ書けません。こういう所は残念な所かもしれませんね(笑)でも、一日1つぐらいは知的好奇心を満たしてくれる、そういうお仕事です。

教育現場の著作権

昨日、小学校の公開授業で社会と体育の授業を見てきました。そこで感じたことは、現状、学校現場では著作権35条の権利制限で充分ではないかということです。これ以上制限を広げる必要は実際ないのではないかと正直思いました(強いて言えば、送信可能化権の限定的権利制限は必要かもしれませんが…)。

著作権35条というのは、学校における授業の過程において、著作物を利用する場合は、複製(コピー)したり、上演したり、演奏、上映、口述することができると言うものです。ただし、権利者の利益を必要以上に害さなければ、という条件付きですが…。また遠隔授業で同時であればインターネットで配信することも可能です。

実際、学校の授業で他社の著作物を利用する機会は限られているように思いますし、上記の通り、教室内の利用であれば権利者の許諾は不要です。問題は授業外に出すときだけですよね。で、実感授業外に出ることがどれだけ多いかとなると意外と少ないのではないかと思うのです。

なので、著作権35条の権利制限の拡大よりは、先生方やICT支援員、児童・生徒への著作権教育?、普及?の方が実は急務なのではないかと思います。

そういう点でお手伝いすることができるといいなぁと強く思います。




どこまで、権利処理?

権利処理ってどこまでが権利処理だと思いますか。

権利者に連絡して、許諾をもらった時?
いえいえ。権利処理をする時は台帳を作成することが大事なのです。この台帳を完成してこそ、権利処理完了になるのです。

この台帳には何を書くのかというと、権利処理の対象物(著作物やその他)の内容(タイトルなど)、権利者名、権利者の連絡先、そして最も大事なのは交渉経緯です。

使いたい資料は大体重なります。一度権利処理をした際に、その時の様子を記しておけば、二度目に権利処理するときの参考になります。それは特記事項だけでなく、普通に行った作業(文書送付とか)も記します。これがあるとないとでは、文書が届いているとかいないとかといった小さな出来事の時も早く対応することができるのです。
また、最初の処理時に間違えた対応が残されていると、次の処理時に同じ間違いをせずにすみます。

権利者と信頼関係を作るためにはこうした細々した対応に気を付けたほうが良いときがあります。
つい、許諾が取れて満足してしまいがちですが、台帳の件数が増えれば増えるほど大事なデータベースにもなっていくので、権利処理をされるときにはぜひ作成してみてください。


テレビの見方

長く放送番組の権利処理をしていると、テレビの見方がちょっとだけ変わってきます。

例えばドキュメンタリー番組
録画せずに見ている時
番組内のテロップはもちろんのことエンドテロップが一番気になります。
どこにどの資料があるか、私たちが把握していることは結構重要だからです。

内容もさることながら、自分の知らない資料が知らない所に所蔵されていることがわかると私にはそれだけでいい番組になります(私だけではないはずです)。

録画した番組
先にエンドテロップをみます。どんな資料が出てくる可能性があるか先に知っておきたいのです。そして、本編をみます。その後でもう一度エンドテロップを確認してしまいます。

そして、いずれの場合も権利処理するときを想定しながら見ています。まっ、さすがに尺とかは気にしませんが…。

ちなみに、こういうのを病気というそうです(苦笑)

レシピと著作権

今日はバレンタインデーですね。 手作りチョコレートを作られる方も多いのではないでしょうか。 今年の私は・・・。残念ながら、手作りはしませんでしたが。

そんなバレンタインにちなんで、レシピと著作権について 書いてみたいと思います。

【前提】 A子さんがバレンタインデーにあげるチョコレートを作ることに しました。A子さんは毎年チョコレートを作っているので、 覚えているチョコレートの作り方にアレンジを加え、 トリュフ作りに挑戦してみました。

ケース1) A子さんが試しに作ったトリュフが美味しかったので、B子さんが 作り方を教えて欲しいとA子さんにお願いしました。 B子さんはチョコレートを作ったことがないので、一緒に作って欲しい とお願いし、B子さんはA子さんの家で詳しく教えてもらいトリュフを 作りました。

⇨これは著作権的に問題ないと思います。レシピはアイデアなので、文字などになっていないと著作物とは言えないのです。

ケース2) 同じくA子さんが試しに作ったトリュフを食べたC子さんは A子さんにレシピを書いて欲しいとお願いしました。A子さんは C子さんが困らないように各ステップでのコツも加えてレシピを 紙に書いてC子さんに渡しました。 C子さんはそのレシピを基にチョコレートを作りました。 その様子についてブログにし、A子さんに黙って、A子さんの レシピをそのまま載せてしまいました。

⇨C子さんがA子さんのレシピを基にチョコレートを作るのは著作権的には 問題がありません。ただ、A子さんに黙って、A子さんが書いたレシピを そのままブログに載せたことは著作権的に問題になると思います。 気になることは下記3点 ①A子さんに黙ってブログに載せたこと。 ②A子さんの書いたレシピを黙ってブログに書き写したこと(複製権) ③A子さんのレシピをブログに記載してインターネット上にアップしたこと (公衆送信権) ブログに載せる前にA子さんにブログに載せることを伝え、OKを もらっておけば、問題にならないと思います。

ケース3) D子さんはA子さんが書いたレシピをC子さんからコピーしてもらい、 そのコツもそのまま解説しながらトリュフの作りを動画にして 動画投稿サイトに掲載しました。

※動画がアップされていることはA子さんは知りません。

※C子さんがA子さんのレシピをコピーしたのはD子さんだけです。

⇨C子さんがA子さんのレシピをコピーしてD子さんに渡したことは、 「私的複製」という権利制限に該当するので、著作権的に問題はないと思います。 ただ、A子さんのレシピを基に動画を撮影し、動画投稿サイトにアップしたことは 著作権的に問題だと思います。 気になる点は下記2点 ①A子さんに黙って動画を作成したこと。(翻案権) ②その動画がA子さんに黙って動画投稿サイトにアップされていること。 (公衆送信権) この場合、A子さんのレシピはD子さんの動画に対して原案となり、 ドラマでいう原作と同じ立ち位置になると思います。これを翻案といい、 著作権者は翻案権を持っています。 ただし、これがD子さん自身だけのための動画メモのような感じであれば、 問題ないと思います。 ケース2同様、動画投稿サイトに載せる前にA子さんにブログに載せることを伝え、 OKをもらっておけば、問題にならないと思います。

ということで、楽しいバレンタインをお過ごしください。

実務家の道具箱

今日は権利処理をする際の道具について、権利処理手順とともに記してみたいと思います。
※あくまでも、個人的なものですし、手順も各プロジェクトによって大きく変わります。それらの点をご了承頂けましたら幸いです。

1)権利者への電話連絡
道具:ペン、ノートもしくはメモ帳

権利者へ電話連絡するときはどんなに前準備をしていたとしても不測の事態が起きる可能性があります。電話の脇にノート類を置いてから電話をかけます。
とはいえ、場合によっては即データ入力することもありますが、保存ミスなどのこちらの頭がまっ白になる事態が発生することもあるので、紙媒体の安定性に頼ることが多いです。
ちなみに、個人的な好みからペンはジェトストリームがオススメです。それも多色の方。最近は、0.3、0.5、0.7、1.0を使い分けています。0.3は申請書などを手書きする際に、0.5は一筆箋を書くときに、0.7は複写式の書類を書くとき、1.0は宅急便の伝票を書くときに、と使い分けています。が、これは完全に個人の好みです。
電話の時のメモは、マチマチです。

メモ帳の理想は、正方形ブロックで、紙質が良いものを探しているのですが、まだ絶対的なものが見つかっておらず、只今、そんなモ帳を探しながら、ノートを使っています。

2)文書送付
道具:ペン、一筆箋、テープのり、両面テープ、クリアファイル

仕事柄、いろいろな文書を送りますがその際もちょっとした道具が出てきます。
送付状代りの一筆箋。これは以前のブログにもあげました。大体、ボールペンか万年筆で書きます。万年筆はこれまた絶対的なブルーブラック好きでそれ以外の色はプライベートで使うことはあっても、お仕事では皆無です。仕事用の万年筆はPerkerのものを使っていますが、時々Watermanなどの物も使ってみたいなぁと思っています。
諸々送付書類が揃ったら、返信用の封筒を用意します。プロジェクトによって、封筒に糊がついているものと、ついていないものがあるので、後者の場合は封筒に両面テープを貼ります。両面テープは幅の細いよりも太いものの方が勝手がいいです。送付用の封筒にはテープのりで封をすると大量に出すこともあるので、便利です。また、相手先に送るものが多いときはクリアファイルに入れて大封筒で送ります。
ま、どこでも当たり前のことかもしれません。

3)返信受
道具:クリップ、ファイル
申請書などを送付すると、許可書などの書類が返ってきます。返ってきたら、許可書と封筒をクリップで留め保管します。封筒の保管はプロジェクト次第なところもありますが、2週間ぐらいは保管しておくと何かあった時に役立つかもしれません。
クリップにこだわりはないのですが、束ねておくと別の紙が一緒に留まってしまうことが結構あります。あれが解消できるクリップができるといいなぁ、と思います。

そして、最後に道具ではありませんが…。
もし、権利処理をする機会があったら、
提出の有無に関わらず必ず相手の連絡先、交渉経緯を記した台帳を作成しましょう。
後日、絶対役に立ちます。

ユーザーと権利者の間で

私たちの仕事は、利用したい人の要望を権利者に伝え、お願いすることです。いわば、橋渡し役です。

権利者が慣れている場合はスルッと行くこともありますし、あまり慣れていない時は、時間をかけ丁寧に交渉を進めていきます。

これには、ある程度センスも必要ですが一番大事なのは経験値なのです。
交渉事ですから、いろいろなことが出てきます。思わぬ理由でNGが出たりすることもあります。でも、実はそこからがお仕事のしどころみたいなところもあり、めげない心とやりとげる心で対応するしかないのです。
ある方に、著作権処理する人って粘り強い人が多いよね、と言われましたが、本当にその通りで、渡す橋を一生懸命、トンテンカン、トンテンカンしているのです。

もともと著作権法は文化の発展の寄与のために制定されていますので、権利者とユーザーのバランスのよい利益確保ができるといいなぁ、と強く思っています。